図書館総合展2012 : 1. 研究評価

「研究評価ツール」というサービスをいろんなところが製品として提供してきています。そのうち2社の製品について詳しく知る機会がありました。

  • SciVal Experts, SciVal Spotlights (Elsevier)
  • Symplectic Elements (Symplectic)

総合展の直前に福岡で講演(録画) があった文献管理ツールMendeleyの機関版も、研究評価ツールの一つといえるかもしれません。総合展でのフォーラムもあったのですが、こちらは参加できず。*1

さて、大学の研究評価とは何か、です。まずは研究者の研究情報を収集し、分析するということになると思いますが、以下のような目的があるようです。

  • 高等教育機関としての認証評価対応(評価機関/国に対して)
  • 研究成果分析(研究費の効果的配分、研究者/研究チーム評価、共同研究分析)
  • 研究成果の公開(社会貢献、説明責任)
  • 機関の比較分析(機関の強み/弱み分析、研究費の効果的配分)
  • 大学ランキング対応

研究者情報の収集と公開は日本でも多くの機関がおこなっていますが、2社の製品は、研究者自身が、あるいは自動でScopusやCiNii Articlesなどの外部の文献データベースから簡単に書誌情報を取り込んで研究成果情報を管理でき、公開もできるというのが共通の機能といえるようです。図書館との関連でいえば、信州大学や九州大学のように研究者情報とリポジトリとの連携を行なっている大学もいくつかありますが、Symplectic Elementsは、リポジトリとのさらに密な連携が売りで、ケンブリッジ大学が中心になって実施しているJISCのDURA ProjectではMendeleyとの連携にも取り組んでいます。どうもこんなかんじのフローになるようです。

  1. 自分の研究のため:研究者は自分の研究の参考にする文献をMendeleyで管理→自分の研究成果論文も登録
  2. 所属する機関の研究評価のため:Symplectic Elementsと同期。公開ファイルを選択(SHERPA/RoMEOの情報と付きあわせて、リポジトリに登録できるかどうかもすぐわかる)
  3. 世界の研究コミュニティのため:DSpaceで自動的に公開

Elsevier社のフォーラムでは控えめに、Symplectic社のフォーラムではかなり何度も、研究評価における図書館員の役割に触れておられました。Symplectic社のプレゼンは、製品の紹介よりもイギリスの高等教育政策におけるリサーチ・アドミニストレーションに関する内容がほとんどでしたが、その中で図書館員の果たす役割が大きかった(あるいは「大きいはずだよ」というencourage)とのことです*2。現在イギリスの約半数の大学で採用されているElementsの運用の8割を図書館が担っているとのことでした。

ですが、そこで日本の大学ですぐに図書館が研究評価のためのデータ収集と分析に中心的な役割を果たし、上記の研究評価の目的を果たしていくことに関与できるのかどうかというと、そういう条件の揃った大学は少ないのではないでしょうか。まず機関内にそういったニーズがあるかどうか、です。「学習支援」と同様、これも学内の他部門(研究支援部門、研究評価部門、URAなど)とのやり取りの中で、図書館の役割があるのかどうか、見出していきたいところです。

ただそういった部門が基本的な研究評価指標(インパクト・ファクターなど)の解釈におそろしく慣れていない場合や、こういった研究評価ツールがあるということを知らない場合や、せっかく集めたデータの扱いがまずく、相互運用性の低い公開のしかたをしてしまう場合があるでしょう。図書館と関係のない話ではないので、研究評価の方法については「知っておいて損はない」程度にアンテナを張って、学内の関係部門とは日頃からコネクションを持っておく必要はあると考えます。

ところで今年は「データ・キュレーション」というキーワードを聞かなかったのですが、たぶん来年もっと出てくるとおもしろいかなと思っています。学内の、特に研究で生み出される情報は論文だけではなく、実験データやフィールド・ノートなどさまざまなものがあり、図書・雑誌だけでなく、それらをたとえば著者名典拠(IDで管理された研究者情報含む)や外の情報とうまく結びつけると研究評価にも使える情報になっていきます。こういった仕組みづくりに図書館は長けているはずですし、その中で必要とされるならば、自ずと研究評価、リサーチ・アドミニストレーションの分野に近づいていくことになるのでしょう。Elsevier社のフォーラムでScopusとの連携について詳しく説明されていた、研究者ID、ORCIDについても認知度が高まっていくと、図書館にとっていいことがあるのではないかな・・と、思っています。(3つ目のキーワード、「文化資源のエコシステム」にも関わってくるところです。)

また、新しい研究評価指標として、Altmetricsが出てきています。ちょうど坂東さんの論文*3が発表されたところなので、押さえておきたいところです。

追記:
Scopusと連携しているといっても、日本の人文科学系の研究者の論文はほとんど収録されていないから、連携が便利、というわけではないのでは?また、人文科学系の研究の評価はこういったツールを使った評価になじまないのでは?そんな意見が出てきそうですが、海外ですでに積み重ねられた議論があるでしょうし、日本では今後の課題、なのだと思います。

*1:登壇者でもあった坂東慶太氏による詳しいレポートがあります。 http://keitabando.org/2012/11/27/victoratyokohama/

*2:詳しくは id:min2-fly によるレポートを参照。 http://d.hatena.ne.jp/min2-fly/20121122/1353579957

*3:坂東慶太. Altmetricsの可能性 ソーシャルメディアを活用した研究評価指標. 情報管理. 2012, vol. 55, no. 9, p. 638-646. ブログ版は http://keitabando.org/2012/11/30/altmetrics/