シンポジウム「日本の専門職養成の構造からみた図書館専門職養成の検討」参加の記

興味のあるテーマだったので,少し遠いですが参加してきました。

シンポジウム「日本の専門職養成の構造からみた図書館専門職養成の検討」
日時:2013年3月16日 (土) 13時30分~16時55分
会場:東京大学赤門総合研究棟2階200番室
主催:日本図書館情報学図書館情報学教育特別委員会図書館情報学教育WG
http://www.jslis.jp/events/20130316Symp.html

「専門職養成の日本的構造」の編著者である橋本紘市氏(東京大学)と,同書でそれぞれ管理栄養士,臨床心理士について書かれた鈴木道子氏(尚絅学院大学),丸山和昭氏(福島大学*1をお迎えし,これからの「司書」養成についての考えるというのがシンポジウムの主旨でした。
図書館側の登壇は,根本彰氏(東京大学),松本直樹氏(大妻女子大学),大谷康晴氏(日本女子大学)です。

全体の背景にあるのはこの本。*2

専門職養成の日本的構造 (高等教育シリーズ)

専門職養成の日本的構造 (高等教育シリーズ)


専門職養成におけるレジームを,1. 国・政府,2. 大学など養成機関,3. 市場(現場) の3者のパワーバランスとしてとらえ,医師,薬剤師などのさまざまな専門職について分析しています。*3「質」についての議論はおき,「量」をめぐる政治に絞って述べられているのですが,今回のシンポジウムでは「質」へも踏み込んでいました。
橋本氏は最近,日本では 3.市場(現場)を「専門職団体」と「現場・施設」に分けて4者の関係性を考えておられるとのこと。特に重要なのは「現場・施設」で,日本の専門職は病院や大学や図書館など「ハコモノ」の影響が大きい「ハコモノ専門職」と呼べるのではないかとのことです。

以下では,討論などの中で特に印象に残った,主に図書館サイドでない登壇者からのコメントを記しておきたいと思います。当日は裏方も仰せつかっていたので,受付やらマイクランナーもしつつの記録。不備な点,間違っている点もあるかと思います。学会から公式の記録が出れば,そちらを参照してください。

司書の養成課程,外からどう見える?

  • 「狭義の司書」養成にこだわる必要はないのでは。図書館予算は縮小し,非常勤が増えている。図書館での司書のマーケットは明らかに狭まっているのに養成はされている。もったいない。「情報コンシェルジュ」といったキャッチーな名称で考えてもよいし,司書の専門業務を広く捉えて汎用的なものにして他業種に打って出るとよいのでは。
  • このシンポジウムは「専門職化」が一つの到達点になっているが,司書がなぜ専門職化しなければならないのか。それだけのインセンティブがあるだろうか。たとえば看護師の教育が高度化,長期化しているが,現場からすると高等教育課程で受けた教育ではなく,現場での研修のインパクト(リアリティ・ショック)が大きい。学生からすると,資格のための高等教育を受けるのにはコストがかかる。(それを回収できて,)ちゃんとそれでお金をもらえる専門職でないと。
  • 集団としての専門職と,個としての専門職もある。司書は後者をどう考えるか?専門職には知識,スキル,マインドが必要という話をいつもしている。司書の知識・スキルはわかる。マインドは何?ライブラリアンシップはどこで身につくのか?(これについては図書館側から,課程でのマインド醸成や,マインドを維持するための専門職団体の働きについて不充分であったとの弁があった)

司書の適正な「数」って?

  • 専門職は構成物であるという認識。発言力が強いものが決めている。食えないとしかたないので,食えているという状態が適正数なのでは。食えているという現実をどこかに設定し,政治的アドボカシーを発揮する。それができていることが専門職では。
  • 過渡期には非常勤雇用が増える。食えるためには,数を抑えるか,市場の掘り起こしだが,臨床心理士に関しては,増えすぎて,いまバックラッシュがおこっている。

専門職として確立するために,どうすればよい?

  • 当事者の意志表示,政治的な動きをしなければ,専門職として滅んでしまう。根拠となる立法を働きかけるなど,当事者のがんばりが大事。(文字活字文化振興法は図書館にとって「使える」。が,業界が活かせていない。政治的な働きかけも不充分・・・)
  • 戦後,栄養士は要らないといわれたこともあるが,専門職団体ががんばって働き口を開拓し,いまは資格を取ればほぼ就職に困らない。就職先がなければ養成機関は成り立たないのは当然。
  • 業界としての地位向上と,専門職養成を,別々に,両輪でやることが大事。臨床心理士では,養成側ががんばっただけでは現場がついていかなかったこともあった。


以上は長いシンポジウムのあくまで断片なのですが,いろんな課題が読み取れるかと思います。
「司書はまだ本気出してないだけ。」最後に頭に思い浮かんだのはこんな感想でした。

*1:ほんの2週間前に福岡で,九州の大学教職員の集まる会で名刺交換したばかり。まさかこんな文脈の異なる場で間をおかずに再会するとはびっくり

*2:こちらも。 根本彰, 松本直樹, 青柳英治. 日本的専門職養成構造における司書の位置づけ: 「管理栄養士」「臨床心理士」との比較において. 生涯学習基盤経営研究. 2012, 37, p.57-71.

*3:司書についての章はありません。