図書館総合展2012 : 2. 学習支援

「学習支援」はいま、大学図書館業界の大きなトレンドで、会議やイベントや研修やらで必ず触れられる話題です。10年ほど前から図書館で実施されてきた「情報リテラシー教育」の流れにはあるのですが、「学習支援」の枠組みでは、ハードとしてのラーニング・コモンズ、ソフトとしての学生協働をミックスした取組が紹介されているようです。

まずはソフト、「学生協働」について。
学生協働と一口に言っても、いろいろです。総合展初日に図書館100連発てのをやっていましたが、「学生協働」の取組事例も全国でかるく100は超えそうです*1

今回聞いた中でも、静岡理工科大学の学生コンシェルジュ(学生本人の登壇が新鮮だった)、ICUのライティングサポート、神戸学院大学の「図書館留学」(留学生協働)、明治大学和泉図書館の「レポートの書き方ナビステーション」、立教大学「ラーニング・アドバイザー」などなど・・・ポスターセッションでも百花繚乱状態でした。

中でも「これはうまい!」と思ったのが、神戸学院大学の「図書館留学」です。リーズ大学との交換留学制度があるが、学生の英語力が低くて日本からの留学が近年ないという状況。なんとかしなければと多読ラリーや、リーズ大学からの留学生との会話をする場を設けるなどいろんな取り組みを図書館で展開。英語力アップの成果もきちんと出ています。さらに同窓会からも評価されて、教材費やTOEIC受講料、留学費の補助を寄附されたそう。まさに図書館、学生/留学生、同窓会の三方良し。ニーズと企画と結果がうまくかみ合っています。*2

資金調達、人材育成、誰がやるか、専任か委託か、職員か学生か・・・いろいろな課題は出されていましたが、リソースが限られているのはどこも同じです。ひとつ印象に残った発言がありました。新入生対象に、7人の専任職員と業務委託のスタッフとで200回もの授業をこなしているという図書館の方が、アメリカの図書館員に「それは20年前のアメリカの状況だ」と言われたことがあるそうです。図書館が無理をしているだけというバランスのよくない状況は脱却し、教員とともに教育目標を共有する中で必要なリソースは確保できて、自然と図書館員が教育の中に埋め込まれる(embedded)状況というのがまだ私たちには思い描けてないのかもしれません。

ラーニング・コモンズに関しては、Lippincottさんの発表が海外事例満載でした。お金をかけなくてもできる事例も。スライドはまた公開されると思いますので、紹介は省略します。

いろいろな事例をきいた結果、今のところ、ラーニング・コモンズ/学習型図書館の成功パターンはだいたいこんなふうにまとめられるのではないかなと思っています。

  • 活発なエリアと静粛なエリアの効果的な配置
  • 学生との協働
  • 空間、設備利用の柔軟性(何かを置いておけば勝手に好きなように使われる)
  • 設備と、それを使っている人を見せる工夫

学習支援の形は本当に大学それぞれです。自分の大学で学生支援を考えるときも、他校の事例を大いに参考にしつつ、それぞれの大学の学生の質や教育ポリシーによってそれぞれ考えればいいのだと思います。ただその時には、「図書館の局所戦」に終わらないよう、学生や、教員、教学担当の職員との協働が欠かせないってことですね。
図書館における学習支援やラーニング・コモンズについて語る人も、図書館職員だけではなく教育工学や高等教育が専門の教員など、今までにない拡がりを見せています。図書館のトレンドとか業界とは離れて考えると、大学の教育の中心であった教員や教学担当部門が、低年次教育の見直しや「学士力」の強化、アクティブ・ラーナーの養成・・・という流れの中で、あらためて図書館の可能性を発見した、というふうにも捉えられるのではないでしょうか。

*1:学生協働まっぷ http://dl.dropbox.com/u/15665405/map/index.html 惜しい!現時点で事例は73

*2:なんと、神戸学院大学の「図書館留学」は、ポスターセッションの最優秀賞にも選ばれてしまいました。 http://2012.libraryfair.jp/node/1268