図書館総合展2012 : 3. 文化資源のエコシステム

文化「資源」とするか「資料」とするかすごく迷ったのですが、「文化資源」ていう言葉を流行らせたい人がいるので「資源」にしてみました。*1
また、私は私で「エコシステム」という言葉がマイブームなので、これらをくっつけて3つ目のキーワードとしてみました。なんらかの資料がうまく収集・整理・保存・提供される仕組みがあり、しかるべくユーザに使われているという状態をエコシステムと呼びたいと思います。*2

総合展では、さまざまな人が、さまざまな種類の資料について、収集は?整理は?保存は?公開は、メタデータは、人材は、予算は、ビジネスモデルは・・・?と問題提起をし、今現在できてきつつある仕組みについて、紹介したり、将来あるべき仕組みについて提案したりしていました。
「さまざまな種類の資料」つまり話題にあがっていた文化資源は、たとえば以下のとおり。

  • 紀要
  • 学位論文
  • 大学、美術館、博物館などが発行する報告書
  • 教材(教科書、講義)
  • ミニコミ
  • 脚本
  • 記録映画フィルム などなど・・・

NCCのフォーラムは、全体として、日本の文化資源は世界から求められている。量も質もまだまだ。もっと発信すべし、という熱いメッセージになっていました。*3
東大の吉見先生は、脚本など従来の仕組みでは計画的に収集されてこなかったような資料群の現況、そしてすでにある資源から多様な知を生み出してきた大学の役割に触れ、全部をつなぐ仕組みと、それを創って支える人材の必要性を述べていました。

NIIのフォーラム「学術電子教科書・教材はこうなる」では、電子教科書・教材の萌芽期にあって、大学が主体となっておこなうオープン化と、出版社を含めたビジネスモデルづくりとの狭間で出てきているいくつかの事例(CHiLOブック、慶応義塾大学における電子教科書実証実験)の紹介や、ライセンスなどの問題提起がおこなわれていました。
(ここは今の自分の仕事ともっとも関わる部分だったのですが、ビジネスモデルの構築にあたっては学生が電子教材に対してどのようなニーズを持っているかは重要だけれど、それに合わせていたらなかなか進まないのでは?という感想を持ちました。あと、ORCIDやJaLCの枠組みが教材のオープン化にどう絡むかはまだイメージできてないところ)

大学図書館が長年扱ってきた主な文化資源は図書と雑誌でした。しかも「紙の」「ある程度の部数出回っている」ものが得意分野。そんな中、紙の代替として電子ジャーナルや電子ブックが既存の仕組みに入り込んできて約10年、今ようやく、全国規模の電子リソースデータベースが構築されようとしていたりもします。*4
ただやはり、依然として「紙の」「ある程度の部数出回っている」図書や雑誌をうまく収集・整理・保存・提供するために最適化された今の大学図書館のシステムはなかなか変えにくく、電子リソースの扱いにはどこも苦労しているようです。変えにくさは、このシステムを作ってきた先輩図書館員や、維持している今の図書館員の努力の結果にほかならないのですが・・・。

ここにきて、図書館が関与したらもっとうまいエコシステムができそうだとされる文化資源の幅がぐっと広がってきました。紙か電子かというだけでなく、です。図書館が組織として持っている、あるいは個々の図書館員が持っている経験、知識は、他の種類の文化資源のエコシステム構築にも適用可能であり、MLA連携やMALUI連携と言われる中で、その価値は意外と高そうなのです。
どこからどこまでが図書館員の扱うべき資源かという問は意味をなさないほど文化資源が多様であることは明白で、あとはMやAやUやIの人とどう協働するか、ということになるんだろうと思います。仕事が増えて大変ですが、いっしょにやればいいよ、ということですね。

*1:福島幸宏. 大学の文化資源へのゲートとしての大学図書館. 図書館雑誌. 106(11). http://researchmap.jp/muo3gjfbz-16665/

*2:校正のたびに周囲に「わからん」と言われつつ、かろうじて英語にその言葉を留めてみた「要覧」の1ページはこちら。 http://www.lib.kyushu-u.ac.jp/media/publications/yoran2012_p08-09_er.pdf

*3:詳しくは江上さんによるブログ参照 http://egamiday3.seesaa.net/article/304120663.html

*4:NIIによる別のフォーラム「日本のナレッジベース構築に向けて: 電子リソース管理データベース(ERDB)プロジェクトの現状と将来展望について」でERDBの紹介がありました。 http://2012.libraryfair.jp/node/884